梅雨が苦手だ。
体が重たいし頭痛がするし、お気に入りの靴を履くのは気が引けるし、朝のヘアセットなんてまるで意味が無いし、ぱっちり上げたはずのまつ毛も湿気にへこたれていつの間にか落ちてきている。
人混みで差した傘はぶつかり合うし、そこから抜け出したと思ったら今度は風に煽られて、しっかり差していたはずなのに背負っていたリュックが濡れている。
今が何時なのか分からなくなるような一日中続く薄暗さや、電車に乗り込んだときのあの特有のむっとした空気感に気圧されて、一刻も早い梅雨明けを願っては例年の梅雨明けの日付を検索してしまう。
そんな梅雨をどう乗り切るかを、わたしはいつも模索しながら過ごしているような気がします。
今回はそのなかのひとつ、雨や梅雨を題材にした音楽に触れる、という手段を主軸に、素敵なエンターテインメントを集め厳選してみました。
テキスト:ツクヨミケイコ
Rain / 秦基博
《今日だけが明日に続いてる こんなふうに君とは終われない》
1988年にリリースされた大江千里さんの『Rain』を、2013年に新海誠監督が手がけたアニメーション映画『言の葉の庭』のエンディングテーマとして 秦基博さんがカバーした楽曲。転調とコーラスと音の響きが癖になる。毎年この時期になると一番最初に思い出す音楽。
楽曲と合わせて、映画と小説にも触れて欲しい作品。新海誠監督の作品の、繊細で美しい天気と感情の描写がわたしはたまらなく好きで、毎年梅雨が近付くたびにこの作品を思い出しては、嫌いなはずの梅雨をほんのちょっと楽しみにさせてくれる作品。
他意無く淀み無く純粋に心に響く音楽や映像や言葉は、エンターテインメントは、きっと時間が経っても色褪せない。
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雫に恋して / indigo la End
《雨が悩んで 私を避けてくわ 雫がポツリと 落ちてもわかるように》
初めて聴いたとき訳もなくただ わたしはこの曲が好きだ、と確信した曲。
メロディ、歌詞、コーラス、入り混じるのに喧嘩しない各パートのフレーズ、サビの《伝うまま流れるだけ》の《け》のハモリ、ストーリー性のあるミュージックビデオとその映像のカメラワーク、色味、もう何もかもがドツボ。透明感と重厚感が混在している。好き。
忘れて花束 / indigo la End
《私は愛したいはずなのに あなたは愛されたいわけじゃない》
前述した『雫に恋して』と両A面シングルとしてリリースされた曲。歌詞に直接的な雨の描写はないのだけれど、この曲のミュージックビデオと、『雫に恋して』の影響を直に受けて雨の香りのする一曲。
切なくて悲しくて心苦しいような音楽なのに、どこか心温まるような、でもやっぱり悲しいような、まだ2人が2人で幸せになることを願ってしまいたくなるような絶妙なバランスが美しい。
『雫に恋して』と2曲合わせて、さらにミュージックビデオも合わせて観て欲しい音楽。
雨後雨のち晴れるでしょうか? / みきなつみ
《あの日描いてた今はもっともっときらきらしていた でも 諦めたわけじゃないし ちょっとだけ遠回りしてるんだ》
かわいい。あまりにもかわいい。かわいすぎる。隣にいる人に話しかけるみたいな歌に安心する。これほどまでにかわいらしい雨のエピソードを歌う曲はなかなかない、少なくともわたしが知る音楽のなかではいちばんだ。
伝わりやすい言葉を音楽に乗せることは、ある意味すごく難しいことだとわたしは思っていて、聴く人によってはチープに聞こえてしまうこともある気がしているのだけれど、みきなつみさんの音楽をそう感じたことは一度も、というか一瞬たりともない。一本のアコースティックギターと、一人の女の子の声。そこから始まった音楽に対する真っ直ぐな気持ちや愛が、滲み出ているからなのかもしれない。
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きみと話せないのは / SHISHAMO
《聞こえるのは雨が傘を叩く音だけ 無口な女の子だと思われてんだろうなあ》
高校生のとき雨が降った日はこの曲を聴きながら登校する、というルーティンがあったことを、今ふと思い出した。
SHISHAMOが歌う等身大のストーリー、特に女の子のストーリーは唯一無二で、恥ずかしくって誰にも言えない気持ちや言動を歌にしてくれる。ドラマや映画になるような大きな起承転結があるわけでもない、もやもや、ぐずぐずと1人で悩む不器用な女の子の一曲。
でもこの女の子、すごくすごく可愛くない?この子はきっと、かわいこぶっちゃうのも、連絡する口実を探しちゃうのも、好きって言えないのも、恥ずかしくてもどかしくて言えないから歌にしちゃってるんだ、って考えたらそれってすごくかわいくない?自分の彼女がこんなこと考えてるって思ったら、すごくかわいいしすごくすごく愛おしくない?
Squall / 04 limited Sazabyz
《自分が欲しいよ 自信がほしい こんなはずじゃない こんなもんじゃない》
五月雨とは陰暦五月ごろに降る長雨のことだそうで、梅雨のことなんだそう。
目で見ると5月なのに、今で言う6月から7月にかけてのことを表していて、さらに口にすると『さみだれ』と読むという、日本語の面白さを凝縮している言葉。それがフォーリミの歪んだサウンドと唯一無二のハイトーンボイスに、真っ直ぐな思いを綴った言葉たちとともに乗って軽快かつ爽快な一曲になっている。
雨になんて打ちのめされないで、それどころか雨なんて良いように使ってやりたい。雨に全部流して、これから始まる夏に向かって、生まれ変われたら。
群青のパレード / SOMOSOMO
《上がる湿度 滲む世界 掻き消すのは騒音のパレード》
ライブハウスの照明にも、野外ステージの自然光にも映える1曲。
この曲の歌詞が上がってきたとき、わたしは何の迷いもなく夏の晴れた日の歌だと思ったのだけれど、人によってはこれを秋の夕暮れ時を思い浮かべることもあるらしく、今ふと歌詞を読み返してみたら雨上がりの歌のような気もしてくる。
きらきらのサウンドに乗った繊細な情景の言葉たちが、人によってその表情を変えるのも、不安定な天気みたいで愛おしい。
あなたにはどんな歌に聞こえてる?
エピローグ
四季には含まれないというのに、独自の存在感を放つ梅雨。ただ、だからこそそれを描写したエンターテインメントも存在する。疎ましく思われがちなこの時期から、儚さや切なさ、美しさを切り取って見せてくれる。
どうせ憂鬱に感じるのだから、都合のいい部分だけ切り取って美化してフィルターをかけて、ドラマチックに好きなように思い描くくらいが丁度いいのかもしれない。
あなたとわたしの梅雨が、疎ましさだけで終わりませんように。
渋谷や新宿に毎日のように繰り出すわたしは、満開になった頃にやっと 桜が咲く時期であることに気がつきました。ただでさえ大人になればなるほど時の流れを早く感じるというのに、桜が咲いている期間なんてあまりにも短くて毎年もどかしくなります。[…]