9月19日に東京・日比谷公園大音楽堂（日比谷野音）でワンマンライブを行う、7人組アイドルグループ・Appare!の連載企画。本企画はワンマンに対するメンバーそれぞれの心境や、これまでの活動を深掘りする内容となっている。3人目は、白色担当の藤宮めいが登場。
※このインタビューは、Appare!が日比谷公園大音楽堂のワンマンライブ開催を発表した翌日に実施した。
アイドルになった後の明確なビジョンがなかった
推：Appare!に加入する前は、どんな生活を送っていましたか？
普通の高校生でした！ ダンス部に入っていて、みんなと楽しく過ごしていました。
推：どうしてダンス部に？
高校には中学の同級生が１人もいなくて、何もかもがゼロからのスタートだったんですよ。とにかく誰かと友達にならきゃヤバいと思って。とりあえず話の合った子と同じ部活に入って、そこから友達を増やせたら良いなと。で、最初に仲良くなった子について行ったらダンス部だった、という感じです（笑）。
推：どういう流れでAppare!のオーディションを受けることになったんですか？
AKB48さんが好きだったのもあり、いつかは自分も人前に立ちたいと思うようになりました。実は、中学の頃にとあるオーディションを受けまして。最終選考まで行って落ちちゃったんですよ。それが悔しすぎて「もうアイドルなんてやらない！」と諦めていたんです。ただお母さんもアイドル好きで、私にアイドルになってほしいと思っていて。実は、お母さんが「天晴れ！原宿（Appare!改名前のグループ）」のオーディションを見つけてきたんですよ。それが高１の終わり頃でした。
推：きっかけはお母さんだったと。
そういう経緯だったので、最初は「天晴れ！原宿」のことをよく知らなかったんです。オーディションに向けて「この曲を歌ってください」と課題を出されたんですけど、その曲も知らなかったら一生懸命覚えて。いざオーディションに行ったら、周りの人は踊りまで覚えてきてて。マジか！となりました（笑）。
推：気合の入り方が違かった。
そうですね。自分のアイドルに対する想いと、他の方達の想いの強さが違うんだなと感じました。アイドルになって具体的に何をしたいのかがない私と、アイドルになって売れたい！ と明確なビジョンを持っている人の差がハッキリ見えて。アイドルになるのって想像以上に難しいんだな、と痛感しました。
推：想像していたよりもシビアな場だったんですね。
特に、印象的だったのが公開オーディションです。そこにメンバーもいたんですけど、みんなめっちゃ怖くて（笑）。当たり前なんですよ、オーディションだから。とはいえアイドルの裏の顔って、普通は見ないじゃないですか。こんなにも本気なんだと驚きました。なんとか受かることができたのは、今振り返ってもラッキーだったと思います。
Appare!の白色担当である意味
推：加入当初を振り返ると、どうですか。
間違えたらダメだ！という意識が強すぎて、ミスが出来ないから顔も必死だし、お客さんの顔も全然見れなかった。今思えば、アイドルって振り付けを間違えないから良いとか、歌を間違えないから良いとか、そういうことではないじゃないですか。だけど当初は、間違えないことが正しいんだと思って。あの頃の私は、本当につまらないアイドルでしたね。
推：どこで変わろうと思ったんですか。
すず（藍井すず）とのか（工藤のか）が入ってきたオーディションです。面談の時点で自分を持っている子が多かったんですよ。このままだと私はすぐに抜かされてしまうし、Appare!の白色が自分である必要がないな、と危機感を覚えました。そもそもアイドルって無限にいるじゃないですか。「ファンの人だって選び放題だし、自分じゃなくても良いことばかりだよな」とか「自分を応援してくれる人がいないなら、アイドルをやる意味がないな」とか。せっかくこういうお仕事をしているのに、楽しさを見失ってました。
推：そこまで思い詰めていた。
それで、今こそ自分は変わらなきゃいけないと思って、アイドルとは何かを考えるようになったんです。それからステージに立てば立つほど「あそこは変えてみよう」とか、色々と自発的に考えられるようになって。徐々に自分らしさを出せるようになりました。
この道を選んで良かったと身に沁みて感じる
推：オーディションの話題で「最初はアイドルに対する覚悟が足りなかった」という話が出ましたけど。逆に、どこで芽生えました？
高校卒業から少し経った頃なんですけど、携帯のカメラフォルダを見返しながら「普通の高校生だったら、どんな感じだったんだろう」と考えたんです。アイドルって、私生活でもすごく気を使わなければいけないんですよ。変な写真が流出したらよくないし、ましてや男の子と一緒にいるなんてもっての外。例え友達だとしても、恋愛関係に結び付けられてしまう。他にも、どういうトラブルが起きるか分からないじゃないですか。まだ普通の高校生だった頃の写真を見返したら、あの時は楽しかったなと思ったんです。高校生活ってこういうことだよねって。
推：芸能界で生きるというのは、“普通の日常”を捨てることでもありますからね。
制服が可愛いという理由で、高校を選んだところもあったんです。だから高校生活を謳歌することに憧れはあって。それを1年しか経験できなかったのが、ちょっと寂しいというか苦しいなと、卒業してから思うようになりました。それでも普通の高校生活では経験できないことを私は経験してるし、何より自分の選んだ道ですし。
推：少しずつ前を向けるようになった。
はい。高校を卒業して、完全にアイドルが仕事になったんです。これが無くなったら、もう私には何も残らない。だからこそ “やるしかない”というモードになりました。しかも、ありがたいことに最近は色んなお仕事をさせていただけるようになって。やりたいこともちょっとずつ出来るようになってきた。なんか……この道を選んで良かったと、身に沁みて感じるんです。時には悩むこともあるけど、やっぱり今が楽しい！ 私、アイドルになって良かったです！
ワンマンに対するプレッシャーと葛藤
推：ライブ活動以外にラジオ（FM FUJI『Music Spice!』）のレギュラーがあったり、最近はTVの冠番組(『Appare!@ チャンネル ～日比谷野音への道～』)が始まったりして。客観的にはすごく良い状況に見えますけど、ご本人としてはどうですか。
色んなお仕事をさせてもらえるようになってきたのは、自分自身もすごく刺激になるし、何より楽しくて。アイドルって歌って踊るだけじゃないよね！と思っていたので、そういうお仕事ができるのは嬉しいです。だけど大きなチャンスをもらう度に、プレッシャーを感じてしまうというか。期待をしていただけるのが嬉しい反面、その期待に応えられなかった時に反省をするんですよ。
推：仕事の幅が広がったからこその悩みですね。
ありがたいお仕事をするたびに、落ち込むことは多いですね。
推：なんと言っても、昨日は念願だった野音でのワンマンが発表されました。
今の私たちなら大丈夫だと思って、日比谷の会場を押さえてくれたと思うんです。その気持ちがすごく嬉しいです。もちろんファンの方の反応も嬉しいんですけど、ずっと近くで応援してくれていたスタッフさんとか、関係者の方々が「おめでとう」と言ってくれるのが一番嬉しくて。その分、信じてくれたのにガッカリさせたらどうしようとか、不安は大きくて。まだ開催まで期間がありますけど、でも半年ほどしかないし。
推：今は、焦る気持ちが強いんですね。
やっぱりコロナでお客さんが減ったと思うんですよ。色んな理由で現場に来られないとか、そもそもアイドルを好きじゃなくなった方もいるし。特典会もフェイスシールドをつけた上に仕切りがあって、ライブ中も声が出せない。そういう制限が多い中で、純粋に楽しめない方もいるわけで。
みんなが笑顔で「楽しかった」と言えなければ日比谷でやる意味がない
推：コロナ禍になって「ライブに行きたいけど、もしコロナに感染したら」とか「前のように自由に楽しめないだろうな」と葛藤している人も多いでしょうね。
ただでさえ、そんな状況なのに、日比谷ってすごく大きいじゃないですか。本当に埋められるのかなって。やるからには満員でやりたい。変に客席がスカスカだったら、やっぱり嬉しいとは思えない気がして。日比谷に立てれば良いって、話じゃないんです。そのステージで、満員で、みんなが笑顔で「楽しかった」と言えなければ日比谷でやる意味がない。まだ不安なんですけど、どうにか良い方向に持っていければ良いなと思います。
推：「満員のステージにする」というのは現実的で良い目標だと思うんですけど、どうすればお客さんって増えるんですか？
それはアイドルみんなが、ずーっと考えてることだと思うんです。一気にガーっと増えることは、まぁないじゃないですか。でも最近は「テレビで見て、初めてライブも観にきました」というお客さんもいて。そういう風に目に付く活動を、コツコツとしていくしかないのかなって。あとは大きいフェスに出させていただいて「良いグループだな。ワンマンも行ってみたいな」と思ってもらうしかない。最終的に行くか行かないかを決めるのはお客さんだから、私たちはきっかけをばら撒くことしかできないですね。
推：ちなみに、藤宮さんにとって野音に立つってどういう意味があります？
まだ自分が立っている想像ができなくて。Appare!がライブをしている画は浮かぶんですよ。そこに自分が見えないというか……これまた不思議な感情なんですけど。まだ多分、心の迷いとか葛藤とか不安があるから、明確なビジョンが見えてないというか、靄がかかっているというか。やっぱり野音に向かって、楽しみよりも不安が勝ってるんだと思います。しかも、集客が全然行かなかったら今後がヤバいじゃないですか。「失敗しちゃったね」で済む話じゃない。本当にグループが無くなってしまう可能性があるくらい、これは大きな決断なので。だから怖いんですよね。まだ胸を張って「憧れです」とか「夢のステージです」とは言えないです。
推：しかも、スタッフの期待も背負っていますからね。
そうなんですよ。だって裏方さんは、アーティストよりも断然大変で。果たして自分なら人のためにそこまで頑張れるか？って思うんですよ。すごい理不尽なことで怒られるし、自分達が現場入りするよりも前に現場に入って、色んな準備をしていただいて。帰るのもメンバーより遅い。それってお仕事として割り切るには、本当にハード過ぎる。それでも関わってくださっているのは、このグループに愛を持っていただいてる証拠だと思う。私もスタッフさんが大好きだからこそ、悲しませたくなくて。
推：スタッフの愛にも応えたいと。
先ほども言いましたけど、私としてはお客さんも、スタッフさんも、みんなを満足させて初めて“良いワンマン”だと思うんです。
推：最後にファンの方へ言いたいことはありますか？
今は楽しみよりも不安の気持ちが勝っているけど、これから本番が近づくにつれて楽しみの気持ちが上がっていくから心配しないでほしいです（笑）。日比谷……絶対に成功させます！
テキスト：真貝聡
撮影：ケン木村