出窓なもコラム第5回「アイドル時代、私の自尊心を守ってくれたもの」

人気連載企画「出窓なも」のコラム第5回。
歌割りや立ち位置に悩み、「自分の存在価値」を見失いかけていた著者を救ったのは、1着の新しい衣装であった。アイドルと自尊心と衣装について綴ってくれた。

自尊心を抱えきれなくなった人間が手を染めるもの

アイドル、ひいては地下アイドルというものは、基本的に臆病な自尊心を抱えきれなくなった人間が手を染めるものだと思っている。

だがいざアイドルの世界に入ってみれば、自尊心をゴリゴリ削ってくるものだらけだ。

フォロワー数が伸びないとか、チェキ列が自分だけ先に途切れるとか、特典会で投げかけられた何気ない一言が刺さったり、お客さんの投稿したライブ動画を見て自分が音を外しているのを再確認して悶えたり。

私の自尊心を最も削ったのは、歌割りと立ち位置だ。

3人組で活動していたのだが、前半はなかなか歌いたいところとか美味しいところを貰えなかった。
立ち位置に関しては、2曲目から6曲目までが暗黒期で、一度もサビで真ん中に立てていない(ちなみに最終的な持ち曲は12曲だ)。
3人しかいないのに。一曲に3回くらいサビあるのに。

「センターを固定せずに3人平等な感じのグループにしたい」とはじめに告げられていたのに、自分の力不足でそのコンセプトを崩させてしまっているのだとも思ったし、単純に自分の存在価値の相対的な小ささを明示されているように感じて苦しかった。
そう。

グループで活動していると、どうしてもなんでもかんでも他のメンバーと自分を比べてしまうものだ。
メンバーは仲間でありライバルでもあるのだからそれはある意味正しい感覚かもしれない。

 

自分の存在価値を感じられるようになった転機

最終的には作詞をしたりポエトリーリーディングを担当したり、かなり好き勝手動かせていただけるようになって、自分の存在価値も感じられるようになったのだが、そうなるまでには幾つかの転機があった気がする。

その中でも大きかったのが、衣装が変わったことだ。
活動のちょうど折り返しくらいの頃に衣装が変わったのだ。

新衣装の話が出てから約一ヶ月かけてメンバーで要望を出し合ってデザイン画を作った。
スカートがいいとかズボンがいいとか、脚を出したくない人と腕を出したくない人ととか、可愛くしたい人とあんまり可愛くしたくない人ととか、とにかくメンバーの意向はバラバラで、それをグループの雰囲気にもあった形でおおよそ方向性の一致した三体に仕立てるのがとても難しいと感じた記憶がある。

出窓なも
まずは他グループの衣装を知るところからだ!ということで作成した衣装傾向マップ
(2022年5月時点)(異論はとても受けつけます)
(敬称略・正式名称でないグループ様もありすみません)

四苦八苦して作って頂いた新衣装はやはりとてもしっくりきて嬉しかった。
私はとっくり長袖長ズボンの初期衣装から、お腹デコルテ出しの布量の多いフレアスカートにしてもらった。

出窓なも
イメージの単語を送って作っていただいた初期衣装。私は確か「綺麗」と送った。

出窓なも
別でハーネスと布パーツを用意して、段階的に進化する衣装にしました(これは初期段階)

新衣装お披露目は姉グループであるピューパ‼︎さんとのツーマンイベントだった。

それまで「工事現場みたい」などとTwitterで言われていたので(私たちにもっとフレッシュなスポーティー感とかガムシャラ感があればマッチしていたのかもしれないが、どうも雰囲気に合っていないところがあったようだ)、ステージに登場した時からそんな印象を持たれていたのでは推す推さないのスタートラインにも立てていないと感じていた。

メンバーで試行錯誤してデザインした新衣装に自信があったし、これでやっと中身を見てもらえるという感覚があった。

新衣装になるという告知はしていなかったので、いつも通りのイントロで登場したらみんなびっくりするぞ〜と、内心ニマニマしながらいつものお澄まし顔でステージに出た。

案の定(?)直接のお褒めの言葉はもちろん、Twitterでも「衣装かっこよくなった」、「衣装がめっちゃ可愛い」、「黒衣装が凜として美しい」といった言葉を見ることができて嬉しかった。

やはり衣装はグループの第一印象になるし、メンバーそれぞれの良さを引き出す一番わかりやすいアイテムになる。

完全にデザイナーさんが作る衣装とか全員揃いの衣装とか色々あるけれど、私は自分が武器だと思えるシルエットや雰囲気で戦えるという点でメンバー原案のバラバラの衣装にとても助けられた。
アイドル衣装は、オーダーメイドの戦闘服であり、アイドルの心を守る鎧なのだと思っている。


心血注いだこだわり強すぎのデザイン画(一部変更はありました)

三体のデザイン画

もし私が3人揃いの衣装を着させられていたら、あの子の方が脚が細いとかあの子の方がお腹が薄いとか、あらゆるところで比べて劣等感を抱いていたと思う。

 

衣装はアイドルグループにとって重要なアイテム

ちなみに、しばしばアイドルグループがやっている「衣装交換」は、私のいたグループではやったことがない。
私含めメンバーそれぞれが「あんな衣装着れたもんじゃない」と思っていたようである。
あんな脚出せないよとか、あんな可愛い系の衣装無理だよ、とか。
オーダーメイドが過ぎると本当にその子専用になってしまう。

それだけ自分の衣装が一番自分の好みであり自分の良さを出せると各々が感じられていたのなら、衣装作りとしては大成功なのかもしれない。

ただし、新衣装にも落とし穴はあって、割とすぐに部品が取れたり穴が空いたりしてしまった。
デザイン性とステージパフォーマンスに耐える耐久性とそして価格のバランスというのは数多のライブ数をこなす地下アイドルの衣装の大きな課題と言えるだろう。

余談なのだが、ツイッターで、「(グループ名)の新衣装、靴がちゃんとお揃いで細かいところまでこだわってるなって思った!」みたいな投稿を拝見したことがある。
私たちは靴がバラバラなタイプのグループだったのですが、あの、テキトーに家にあった靴を持ち寄ってると思われていますか……?
衣装が同じで靴が違うならともかく、衣装も靴もバラバラなのであれば、それは各々の衣装とか身長とかに合わせて靴も吟味していると思いますよ……浅草キッドじゃないんだから……

とにかく、(靴含め)衣装というのはアイドルグループにとってとても重要なアイテムだ。
対バンイベントのフライヤーには衣装を着たアー写が載るのだから、楽曲以上にそのグループの入り口とも言えるかもしれない。

グループの色を体現し、メンバーそれぞれの良さを引き出す衣装は、じつはメンバー自身にとって心を支えてくれるものだったりする。

 

著者情報:出窓なも
心理学科卒、一年半留年し、現在社会人一年目。
「魔女」と呼ばれるなど順風満帆ではない大学生活を送る。学外に居場所を求め、チェキの撮れる定食屋、メイドカフェ、ミスiD、地下アイドルなどさまざまな場所を転々とする。
好きなものはパッションフルーツ。苦手なことは蝶々結び。

 

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