9月19日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブを行う、7人組アイドルグループ・Appare!の連載企画。本企画はワンマンに対するメンバーそれぞれの心境や、これまでの活動を深掘りする内容となっている。2人目は、甘い笑顔で見る者を魅了する・桃色担当の橋本あみが登場。
否定されるのが嫌で、アイドルになりたいと言えなかった
推:アイドルになりたいと思ったきっかけは?
高校生の時に、初めてライブを観に行ったんです。先輩にライブアイドルを応援している方がいて、その人に「一緒に行こうよ」と誘われて。そこで「バンドじゃないもん!」さんと、愛媛のご当地アイドル「ひめきゅんフルーツ缶」さんの対バンライブを観たんです。もう感動して! こんな世界があるんだって。そこですごく感銘を受けたというか、自分もこうになりたいと思いました。
推:それまでは、どういう道に進もうと考えていました?
学校の先生になりたかったんです。国語が好きで、しかも憧れていた先生がいて。高校を卒業したら愛媛(※橋本の地元)の大学へ行って、教師になろうと考えていました。
推:そんな子が、公務員とは真逆の世界に惹かれた。
ハハハ、そうですね。自分でもビックリです。特に、学生時代とかは挑戦的な性格じゃなかったので、安パイと言ったらアレかもしれないですけど。
推:堅実な性格だったわけですね。
そうです。でも、私はアイドルになりたいと思った。高校は進学校だったので、アイドルを目指してることは、ずっと隠していたんですよ。でも高校2年の時、担任の先生に相談したら「良いじゃん!」と肯定してくれたんです。人に否定されるのが嫌で胸の内に秘めていたけど、言っても良いんだと思って。そこから両親とか友達にも言えるようになって、みんなも応援してくれて。そこで応援してもらう嬉しさも知ったし、頑張ってみようと思うきっかけになりました。

このオーディションがダメだったら、諦めようと思った
推:そこからオーディションを受けるようになると。
振り返ると、色々受けましたね。ただ1次審査は通るけど、2次審査より先が難しくて。しかもオーディションは交通費が出ないから、自分で稼いだアルバイト代がどんどん無くなっていきました。
推:地方に住んでいるとお金で苦労しますよね。
それで愛媛を出ようと思って、最初は大阪に住もうとしていたんですよ。
推:どうして大阪に?
大阪の事務所に受かっていたんです。だけどアイドルで有名になるのなら、アイドル激戦区の本場で勝負したいと思うようになって。大阪へ旅立つ1週間前に「やっぱり私は東京に行きたい」と両親に泣きながら説得をして、東京行きを決めました。
推:そんな急に? 住む家はどうしたんですか?
これもすごい話なんですけど、母の知り合いから不動産屋さんを紹介していただいて。「すぐに決めないと、住むところがないんです!」と言って緊急でお家を用意してもらいました。「普通はこんなことできないですよ!」と担当の方に言われながらも、めっちゃ無理やり探してもらいましたね。
推:上京後はどうしていたんですか。
生活費を稼ぐためにアパレルのお店で働きました。仕事をしながら、オーディション情報を探していたら、「天晴れ!原宿」の桃色後継者オーディションの告知を目にしたんです。しかも自分の誕生日に。当時は19歳だったんですけど、10代でアイドルになりたいという漠然とした目標があったので「これがダメだったら、夢は諦めてアパレルで働き続けよう」と。それぐらい強い意志を持ってオーディションを受けました。
周りの人に支えられて、やっと掴んだ夢の切符
推:合格した時のことは覚えていますか?
大号泣でした! でも大変だったのがオーディションに受かったと同時に、アパレルの仕事を辞めなきゃいけなくて。「……すみません。こういう事情で辞めたいです」と店長に謝ったんですけど、その時は人生で一番怒られました。というのも、私が働いていたお店は辞めちゃう子が多くて。面接の時に「アイドルになりたいんです」とは言ってなかったんですよ。「このお洋服屋さんで働きたくて上京しました」と話していたので、「いきなり言われても!」みたいな感じになって。本当に人生で一番謝りましたし、一番怒られました(苦笑)。
推:オーディションの合否は、どうやって知ったんですか?
メールで知らされました。その日、アパレルで働いていた副店長が家までお祝いに来てくれて。

推:あ、副店長には話していた?
はい。ある日、副店長が「もう仕事を辞めるんだ」と話してくれた時に、私もアイドルになりたいことを打ち明けたんですよ。その後、オーディションと出勤日が被った日があって。小心者なので「仕事を休みたい」と言えないし、その職場は人数が足りていなかったので、休むことは重罪だったんです。そしたら副店長がわざわざ出勤日を代わってくれて。……副店長がいなかったら、私はここにいなかったです。
推:担任の先生しかり副店長しかり、周りの人に恵まれていますね。
そうなんですよ! 高校卒業の時、クラスメイト全員の前で「私は絶対にアイドルになります」と公言したんです。それで友達も応援してくれるようになって。一番仲の良い友達に「私、受かったよ!」と連絡したら、その時、友達は居酒屋にいたらしいんですけど、その場で大号泣しちゃって!
推:本当に愛されていますね。
なんか、私よりもみんなの方が泣いてる感じでした。
推:初ステージのことは覚えています?
あの日のことは忘れられないです。今も思い出したら泣きそうになるくらい。こんなに幸せな瞬間はないなって。みんなに幸せとか元気を届けたいと思ってステージに立ったけど、私の方がいっぱいもらってしまって。言葉に表せられない多幸感というか……(目に涙を浮かべて)本当に感激しました……。
推:諦めずにやっと掴んだ夢ですもんね。
……それだけアイドルになることを渇望していたし、なれたことも嬉しかった。……周りの人に恵まれていたけど、嫌なことを言われたこともあったので「やってやったぞ」って。今までのことがすべて報われた気持ちになりました。
自分は空っぽだなと思った
推:初ステージを経験したら、次の課題は自分の個性を見つけることですよね。
そこが一番悩みました。自己紹介をする時もそうですし、アンケートで自己PRを書く場面があるたびに、自分は何も持ってないなと思って。「アイドルになりたい」という熱量だけが先にあって、ついてくる自分は空っぽだなというか。笑顔を褒めてもらうことが多かったので「自己アピールは笑顔です」と書いていたけど、それ以外が出てこなくて。
推:そういう抽象的なものしか浮かばなかった。
それで困っていたら、とあるメンバーに「あみってぶりっ子だよね」と言われた時があって。どうやら、コンビニの店員さんにぶりっ子している姿を見たらしいんです(笑)。自分では良かれと思ってやっていたことが、周りにはぶりっ子に見えるんだなと思って。それに気づいた時、これを使ってやろうと決めたんですよね。
推:ぶりっ子をキャラにしようと。
はい。メンバーカラーが桃色ですし、ピッタリじゃないですか。だから自分が思うぶりっ子に近づきたいなって。あとは私の憧れているアイドルが元NMB48の渡辺美由紀さんなんですけど、愛嬌があって釣り師の印象が強い方なんです。だから私も愛嬌・笑顔・ぶりっ子を極めようと。あとは愛媛県出身なので方言をもっと意識的に使っていこうと思って。そしたら、だんだんと今の自分が形成されました。
日比谷で楽しそうにしている人を見たいし、楽しそうにしているメンバーを見たい
推:ちなみに、現在のグループの状況はどう見えています?
発展途上という感じですかね。まだまだ大きくなりたいです。
推:上を目指す中で、野音のワンマンはAppare!にとってどんな意味がありますか。
変われるチャンスだと思うんです。それまでお客さんがいることを、当たり前に感じてしまっているところがあって。その意識をぶち壊して、高い目標を設定したのは私たちにとって大きかったです。現状を保とうとすると後退してしまう。だから、より前に進むために必要だった。Appare!や自分自身を変えるきっかけになったのかなって。今、開催が決定して全員が日比谷を成功させたいと思っているはずだし、私も日比谷で楽しそうにしているファンのみんなを見たいし、楽しそうにしているメンバーも見たい。もちろん他にも頑張る理由はたくさんあるけど、それが一番の励みになる気がします。
推:今の状態でも野音で勝負できる力があるのか、それとも超えなければいけない課題があるのかで言うと、どうですか?
課題は歌ですね。やっぱり、あのステージに立つ方々は楽しいだけじゃないと思うんです。Appare!は“楽しい”に特化したグループではあると思うけど、楽しいだけじゃない感情も持って帰ってほしい。そうした時に、もちろんダンスも上手くなりたいし、上手くならないといけないけど……一番、直接的にお客さんに届くのは歌なのかなと感じていて。今のままじゃ、楽しいだけで終わっちゃうから、歌を上手くなる上で、いろんな感情を乗せられるようになりたいんです。
推:その表現を身につけるために、何が必要だと思います?
それこそ目線は野音に向かっているけど、観てくれる方にどんなものを届けたいのかは、多分バラバラだと思うんですよ。「私たち7人はこれを伝えたいんだ」という同じ気持ちが歌声に乗れば良いのかなって。そのためには、気持ちや目線を合わせる時間が必要かなと思います。
一生忘れられない日にしたい
推:野音に立つことは、橋本さんにとってはどんな意味がありますか。
日比谷のワンマンをやりたいと決めてから、ずっと思っているのは“一生忘れられない日にしたい”ということ。初めてステージに立った時の、あの忘れられない気持ちになりたい。しかも、お母さんがライブを観に来てくれるんですよ。……うわあ、泣きそうだ。(涙を流しながら)9月19日は敬老の日なんですけど、おばあちゃんも来てくれるんですよ。
推:野暮なことを聞きますけど、今流しているのは何の涙ですか。
えー、なんの涙だろう。でも……ずっと……一番近くで応援してくれていたのが母なので。私がステージに立つ姿を、ずっと待ってくれていた人なんです。そんなお母さんに観てもらえるっていうのは、すごく……嬉しいですね。(さらに涙をポロポロと流して)すみません。あー、無理だ。
推:今日までの道のりは長かったですか?
もうすぐ一人暮らしをして2年が経つんですけど、もうそんなに経つんだ!と思って。メンバーからも「あみってずっと前からいる感じがするよね」と言ってくれる子が多くて。だから、もう2年かと思うけど、母にライブを観てもらうことに関しては、やっとか!って感じがします。
推:Appare!に入る前から、娘の晴れ舞台を待っていた人ですもんね。
そうですね。
推:今回は涙の場面が多かったですけど、普段からよく泣くんですか?
そんなことないんですよ! インタビューで泣いたのはデビューした時以来。初めてステージに立ったことを聞かれて泣いた気がするんですけど、こんなに泣いたことはないです(笑)。
推:最後に、言い残したことはありますか?
Appare!を推さなきゃ損ですよ!と伝えたいです。出会うタイミングって人それぞれ違うけど、「もっと早く推しとけばよかった」という後悔はさせたくないんですよ。それに応援してくれる人がいるからこそ、頑張れる理由にもなってる。ファンの人がいないライブは絶対に楽しくないから、やっぱりライブに来てほしいですね。

テキスト:真貝聡
撮影:ケン木村